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 こんばんは。

 今日長野地裁で,厚生年金基金の脱退を認める判決が下されました。

 厚生年金基金は,企業年金の一種で,基金が加入事業者から集めたお金を運用して年金受給者に配当を行う制度です。
 日本の景気がよかった当時は,国債を運用する厚生年金よりも基金によって積極的に運用がなされることで配当額が増えるといわれていました。
 ところが,バブルがはじけた後はそのようにうまくいかず,また利回りもよくなくなってきました。
 にもかかわらず,支給額を減らすには受給者の3分の2の同意が必要なのですが,これを得ることができずにどんどん基金の運営が危なくなってきてしまいました。
 そうして,現在では,576ある基金の約半分において毎年の年金給付が保険料を上回っているという現状で,もはや制度として成り立たなくなっているのではないかと思っておりました。

 今回問題となった厚生年金基金では,これらの背景に加えてさらによくない事情があります。
 うち一つが,先日問題となったAIJ投資顧問の問題であり,その件で約65億円を失っております。
 また,2010年に20億円を超える使途不明金が見つかり,当時の事務長は行方不明となって業務上横領容疑で指名手配されているという状況なのです。
 そこで,ある会社は基金の将来に期待を持てなくなったとして,脱退を決意します。

 ここで,厚生年金保険法では,基金を脱退するためには,脱退に伴う将来的な積立金不足を補填する特別掛金の支払いや事業者と従業員の同意を要求しています。そして,この事案では,脱退を希望する会社は特別掛金支払の意向も示したりしておりました。
 しかし,実務上,脱退には代議員会の承認が要求されており,そして代議員会は不承認の議決をされてしまいました。
 脱退を不承認とした理由は,もしこれで脱退を認めてしまえば脱退が相次ぐ可能性があり,これによって基金が破綻してしまうということなのでしょう。
 そうして,この会社は,脱退を不承認とした代議員会議決の無効確認を求めた訴えを起こしました。

 そして,判決は,基金の維持のために事業所の脱退に一定の制限をかけることには合理性があるものの,やむを得ない事由がある場合には代議員会の議決または承認は不要であると指摘して,この会社の脱退を認めました。

 私としては,上記の厚生年金基金の現状を考えれば,加入事業者が脱退を考えるのは当然だと思いますし,今回の判決は一面において支持したいと思います。
 ただ,色々なところで言われている通り,これが認められてしまうと,破綻が見えている基金では脱退が相次ぐことになり,この制度は終了してしまうでしょう。そして,それによって被害を被るのは,現在基金から受領している年金受給者でしょう。
 とはいえ,破綻している制度を維持するために若い世代にツケを負わせることは問題というほかなく,ある意味この結論はやむを得なかったのかもしれません。
 このような結論は目に見えていたにもかかわらず,本来手を打つべき国が漫然と構えていたことが全ての元凶なのはいうまでもありません。特に,現政権もそうですが,自民党政権時にもっと有効な対応をすべきだったと思います。
 加入事業者と基金の悲鳴は今回の裁判で如実に現れたわけですから,一刻も早く解決の方向性を導き出してもらいたいと思います。

 なお,この件を機に脱退を争われる方が出てこられると思うので付言すると,今回の判決はそもそも地裁レベルの判決なので,最終判断が変わる可能性があり得ます。
 また,今回の判決では「やむを得ない事由がある場合」に脱退を認めました。
 そして,この基金では,AIJ問題のほか事務長の横領疑惑問題という特殊事情があったからこそ認められたとも評価でき,脱退のハードルはそれなりに高いことが予想されます。
 また,この事案では特別掛金は1000万円以上ということですし,その点でもハードルは高いと思われます。
 よって,脱退を争われるにしても,その判断は慎重に行われるべきと思います。

 また思いついたら書きます。ではでは。
三枝康裕 | ニュース | comments(0)  | trackbacks(0) | 19:49
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