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 こんばんは。


 先日より裏口入学問題で話題に上がっている東京医大ですが,今日のニュースで,女子受験生の得点を一律に減点して合格者数を抑えていたというものが出たので,取り上げてみました。

 東京医大自体は,この件について事実関係を把握しておらず,内部調査を行い,適宜公表するとしています。
 ただ,関係者の話によれば,1次試験の結果について,女子受験生の点数に一定の係数をかけて一律に減点したということでした。
 こうした点数操作は平成22年の一般入試において女子の合格者が4割近くになったことをきっかけに行われるようになったそうで,女子の点数を10%以上一律に減点した年もあったということでした。
 この点について,入試の募集要項には説明はなかったということでした。
 ある大学関係者は,女性は結婚や出産で医師を辞めたり休職したりするケースが多く,あまりに増えてしまうと大学病院の態勢を維持できなくなるという危機感からというように話しているそうです。
 大手予備校によれば,1点不足で不合格する受験生は100人規模とかなり多く,10%も調整が入れば相当数の合否逆転が生じる可能性があるということです。

 このような話ですが,実はうわさ話レベルでは昔からよく聞いていたものでした。
 女子受験生を減点する理由としては,医学部の特殊性が挙げられます。
 具体的には,一般的な大学は,大学で学んだ上で,卒業すると,その大学から離れて社会で活躍するという人が多いと思います。
 しかし,医学部の場合,卒業生の大半は大学付属病院や大学の関連する病院で働くことが多く,入試は大学入試と入社試験の2つの性質を持っていると考えられます。
 そうすると,例えばテストの点数がいくら良くても,同僚として一緒に働けないような属性の持ち主の場合,試験実施者の裁量として不合格にしてしまうという傾向があるというのは致し方ないという考えがあります。
 そして,上記の通り,女子については,結婚や出産等のイベントによって職場を離れてしまったり,連続夜勤に耐えられる体力だったり,男子に比べて職場として使いやすい人材かどうかという問題があり,男子と女子が同じ点数であれば男子を採用する傾向があるということもまことしやかに聞いたことがあります。
 今回は,その延長線上というべき,女子の一律減点ということなのでしょう。

 これが法的に問題になるかですが,参考となる裁判例としては群馬大学医学部入試事件が挙げられると思います。
 この事件は,50代の受験生が,合格点をとっていたと考えていたにもかかわらず,年齢による差別を受けたがために面接の点がなく不合格になったのではないかと考えて,入学請求を行ったというものでした。
 平成19年3月29日の東京高裁判決では,年齢差別が具体的にあったという事実を認定せずに受験生側を敗訴としましたが,同時に判決理由中で以下のように述べました。
・入試の合否判定は,性質上試験実施期間の最終判断にゆだねられるものなので,本来的には裁判所の審判権は及ばない。
・ただし,国立大学の場合,国が財政基盤を整え,運営の大枠に関与する公の営造物なので,入試における合否判定に当たって,憲法や法令に反する判定基準,例えば合理的な理由なく年齢,性別,社会的身分等によって差別が行われたことが明白な場合には裁量権を逸脱,濫用したと判断するのが相当である。そのような他事考慮がなされたかどうか,なされたといてその他事考慮が許されるものであるかどうかの問題は,裁判所が審判しうる事柄である。
 今回問題となっている東京医大は私立なので,国立大学と同じ基準をそのまま当てはめるわけにはいきませんが,上記の基準は一つの参考として考えられることになるでしょう。

 もしも上記裁判例を参考にする場合,問題となるのは性別差別をどのように認定できるかですが,今のところニュース,そのニュースソースとなった関係者くらいしかなく,まだ事実認定をするに足りる材料が揃ったとはいえないように思えます。
 ですが,来週東京医大から調査結果が発表されるようなので,その内容によっては事実認定に耐えうる資料が揃う可能性があります。
 そして,その場合に上記裁判例の基準を当てはめるのであれば,裁判によって入学が認められる可能性は十分にあると思われます。
 そのため,今後の場合によっては,東京医大としては,裁判請求を避けるために任意に合格者として受け入れる等の対応をとる可能性もありますが,問題は去年や一昨年の受験生ならばいざ知らず例えば8年前の受験生が今更東京医大に入りたいと思うかでしょうか。

 入試自体に女子の一律減点があるのであれば,それを予め公表していれば,そもそも女子は東京医大の受験を回避していたかもしれませんし,無駄な受験対策や受験料の支払いもしなかった可能性もあります。
 特に,医学部受験は,非常に難関であるため,受験校を絞る場合に受験対策も大きく変わってきますから,その影響は他学部受験生よりも大きいように思います。
 それだけに今回の件は,事実だとすれば大変罪深いことだと思いますし,不合格としてしまった受験生に対して慰謝料を支払う等の対応も検討されるかもしれません。

 ただ,私が気になるのは,昔からこのような話はうわさ話としてはよく耳にしていただけに,ほかの大学ではどうなのだろうかと気になります。
 上記の裁判例は国立大学の事案での基準ですが,もしも私立だけでなく国立でも同じように性別によって一律減点等の措置を講じていたとすれば,非常に大きな問題になりそうです。
 おそらく,今回の問題を受けて日本中の医学部で合格判定の確認がされるでしょうが,その結果が待たれるところです。
 また,他大学ではそのようなことをしていなかったとしても,今回これだけ問題となった以上,今後このようなことがされないようにはなっていくのだろうと思いました。


 また思いついたら書きます。ではでは。


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三枝康裕 | ニュース | comments(0)  | trackbacks(0) | 22:48
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