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 こんばんは。

 以前より問題になっていた,札幌ドームでの日ハム戦を観戦された女性がファウルボールの直撃を受けて右目が失明したという損害賠償裁判ですが,札幌高裁での判決に対して当事者双方が上告せずに判決が確定したそうです。

 この事件では,球場設備の安全性などが問題となり,1審判決では施設そのものの安全性に疑問が呈されて球団だけでなく施設を保有する札幌市,札幌ドームにも責任を認めておりました。
 それだけに,この事件の判断は,日本中の他の球場において,どの程度の安全性を確保しなければファウルボールが観客に当たった場合に責任を負うのかという点など非常に問題だったと思います。

 その中で下された札幌高裁の判決は,球場の設備については他球場とも比較して安全性が劣っているわけではないとした上で,施設を保有している札幌市と札幌ドームの責任は否定しました。
 ただし,この被害を負った観客である女性は,球団が観戦イベントで招待した子供の保護者であり,野球の知識はほとんどなく,ファウルボールの危険性も認識していなかったのだから,球団には危険性を具体的に告知して,危険を引き受けるか否かを判断する機会を与える等の安全配慮義務があったのに十分ではなかったとして,球団には責任を認めました。
 また,被害者の女性について,打球をよく見ていなかったのは過失があったとして,過失相殺として女性側に2割の過失を認めたということでした。

 この判決を見ていて,いくつか思うところがありました。

 まず,一審判決では,球場の安全性に疑問を呈しましたが,これを二審も支持してしまうと,日本の球場のあり方を抜本的に変えなければならないレベルの大事になってしまうことでしょう。
 そして,球が100%飛んでこないという球場に変えてしまうというのは,ドーム球場では可能であろうものの,屋外の球場ではほぼ不可能ですし,屋外球場の運営側が免責される基準というのが非常に厳しくなるであろうことが予想されます。
 また,よくいわれる臨場感というものですが,もしも臨場感の乏しい野球観戦であればテレビ観戦でもあまり変わらなくなってしまうと思いますし,球場や球団運営についても大きく悪影響を及ぼすことでしょう。
 その意味では,一審判決のように,球場の安全性に疑義を呈する判決が今後の有力な指針として固まってしまうことは影響が大きすぎ,ある意味それを止めるべく球場の設備自体には問題がないとしたことはバランスをとるという意味では妥当な結論だと思います。

 一方,今回被害を受けた女性ですが,野球についてはほとんど知識を持っていなかったということです。
 そんな人が,常に注意していなければファウルボールが飛んできて身の危険があるということを知ってさえいれば,子供を観戦に連れて行くことはなかったかもしれません。
 だとすれば,女性にしてみれば,球場の危険性に関する情報さえきちんと事前に教えてさえくれれば,ある意味覚悟をして球場にむかっていたかもしれないのに,その覚悟をする機会を奪われたということになったとも考えられます。
 ファウルボールの危険性自体は,チケットの裏面などにも掲載されていたようですが,実際その細かい約款などを熟読してから球場に行くかどうかを判断する人がどれだけいるのかということが重視され,もっときちんと危険性を事前にアナウンスをして,球場に行くかどうか,行ったとした場合にきちんと自己防衛をする心構えをさせていたかという点については球団の責任を認めたということでしょう。
 そうして,球場一般の責任を否定して影響を大きくしないようにした上で,個別的なアナウンスの不足という点を取り上げて球団に責任を認めたということでバランスをとったということだと思います。
 理屈はどうあれ,ある意味バランスをとろうと頑張った判決のように見えました。

 この判決が確定したということですから,おそらくこの高裁判決が今後の判断に関する有力な先例となるのだろうと思います。
 そうすると,この高裁判決が今後の球場の安全性についての一つの大きな指針になるということだろうと思います。
 この判決を有力な指針として考えるとした場合,以下のことがいえると思います。

 まず,既存の球場のあり方についてですが,他球場と比べてネットなどの施設が特段劣っているというわけでないのであれば,球場側に責任は生じづらいといえると思います。
 ですから,球場運営側としては,もしも他球場と比べて設備が劣っているというのでないならば,現状のまま維持管理を継続すれば基本的によいということになろうかと思います。
 一方,プロ野球興行が年に数回という地方球場の場合,球場設備をよく見直さねばならないかもしれません。

 次に,球団の責任としては,野球をよく知らない人を球場に呼んで野球のおもしろさを知ってもらおうという時には万全のアナウンスをしなければならないということだと思います。
 もちろん,ファウルボールの危険性はいうしかないものの,そういう部分を強調すれば,そこまでして球場に来たいという人は少ないかもしれません。
 ただ,いい面ばかりを強調するやり方でアナウンスをすれば,球場に呼んだ人には本件のような責任が問題になろうかということがいえると思います。

 第3に,これまで何度も野球を見たことがある普通の観客が,観戦中にファウルボールが当たったとしても,原則として誰かに責任を追及することは難しそうだと思います。
 この裁判例は,招待された客という特殊性をもって責任を認めたと取り得るので,自ら球場に出向いてファウルボールに当たった場合は射程範囲外となります。
 この場合,上記の通り,設備が通常程度のものであれば設備の不備をいうこともできないため,原則として責任追及が困難であろうといえると思います。

 第4に,招待で行った観客だったとしても,ボールから目を離した場合,それが過失としてカウントされて,割合的に賠償額から減額されるということも忘れてはならないと思います。
 結局,野球を知らないから自分は全く悪くないということは難しいということだと思います。

 この結論がよいかどうか,それをここで述べるつもりはありません。
 ただ,一つの基準ができたと思われ,球場や球団はもちろん,観客もこのような基準があるということをよく理解する必要があるでしょう。

 ファウルボールの被害は,程度の差はあれ,年間必ず何件か起きるものだと思います。
 これまで私も何度も観戦に行っていますが,私の近くの人が当たったということは何度も目にしたことはあります。
 そうなると,野球という興行を行うに当たって,これは決して避けて通れないものだと思いますし,どんなに注意していても高速で飛んでくるライナー性の球は避けられないと思うと,当たってしまった場合は本当に運が悪かったというほかないのでしょうか。
 この判断は他人事とはとらえていませんが,それでも賠償の範囲が拡大すれば野球人気は落ちてしまうでしょうし,バランスの取り方がなかなか難しい問題だと思います。
 このためだけの保険加入を前提にするのも,チケット代が割高になってしまうだけとも思われ,どのように対処をするのがよいのか,妙案がなかなか思い浮かびません。

 また思いついたら書きます。ではでは。

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三枝康裕 | スポーツ関連 | comments(0)  | trackbacks(0) | 23:59
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