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 こんにちは。

 先日世間を騒がせていた横浜地検川崎支部の被疑者逃走事件ですが,被疑者は逃走の動機について「被害者に自分がやったことを説明し,奪った金を返したかった。金は返すから逮捕は勘弁してほしかった。」と述べたということでした。

 報道を見る限り,逮捕罪名と本人の主張に違いがあるのは分かりますし,それを何らかの形で訴えたいという気持ちは弁護士という仕事をしている私には理解できます。
 しかし,それが被害者の元に行ってお金を渡すという発想であるという点については酌量の余地はないように思います。

 刑事弁護の肝の一つに示談というものがあり,被害者が納得してくれた場合にはある程度のお金を渡して謝罪の形の一つとするという方法は私も何度も経験があります。
 しかし,それはあくまで被害者が納得をしてくれる場合に限ります。
 被害者は犯罪被害で傷を負っており,そこに加害者側の人間が接触することは一般的には弁護士でも嫌だという方も多いと思います。
 ただ,加害者が自身の謝罪の気持ちをあらわすために,例えば警察を介するなどして被害者の意向を聞き,被害者が話を聞いてくれるとなって初めて示談という話を持ち込むのが普通でしょうし,そうしなければ被害者を再び傷つけることになってしまうでしょう。

 この被疑者が,真に被害者のことを考えていたのであれば,突然被害者のところに押しかけてお金を突きつけるという行為はまずあり得ません。
 まして,自分が強姦事件に関与していないという主張を持つにしても,強盗の分の被害金だけを返そうという姿勢は不誠実と捉えられてもやむを得ないように思います。
 また,「逮捕は勘弁してほしかった。」という言葉にあるように,その行動の根本にあるのは被害者への謝罪ではなく,罪から逃げたいという意識だけだったのではと疑われても仕方ないように思います。
 謝罪であったり,示談であったり,そのようなものを希望するにしても,それは逃走中に電話した妻や弁護士に依頼すべきであり,それを自身が何の段取りも踏まずに成し遂げようとするのは,仮のその行為が真に謝罪の意図から出たものであったとしてもエゴであるといわざるを得ず,被害者感情を逆撫でする行為であったと思います。
 被害者の感情を考えれば,被疑者逃走中はいわゆる「お礼参り」にくるかもしれないという恐怖があったでしょうし,逮捕された後は「やはり自分のところに来るつもりだったのか」という意味でも強い恐怖を感じたのでしょうから,この点は大変重い行為をしたことを自覚してもらわねばならないでしょう。

 本件の逮捕罪名は強盗強姦罪ですから,この罪名のまま起訴されることとなれば裁判員裁判となることでしょう。
 今回はどうやら逃亡罪は成立しなさそうですが,それでも逃亡したという行為,そしてこれによって被害者感情を傷つけたということ自体が悪い情状となり,その分量刑に加算されてしまうことになるのではないかと思います。
 また,この一件があったことによって,今から先になる裁判の際にもまた報道等で話題になることでしょう。
 さらに,今回の逃亡劇で多数の友人が手を貸したという話もありますから,その人達も罪に問われることを考えると,得るもののない行為のために失ったものは大きいといわざるを得ません。
 彼の主張の問題等もあると思いますし,その点は今後どうなるのかは分かりませんが,自身の罪については償ってもらいたいと思いました。

 また思いついたら書きます。ではでは。
三枝康裕 | ニュース | comments(0)  | trackbacks(0) | 15:23
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